第3編 無機物質

第3章 金属元素(Ⅱ)ー遷移元素ー

1遷移元素の特色 2銅 3銀 

4 5クロム,マンガン

6金属イオンの分離

 遷移元素の特色
 

遷移元素は周期表上で,〔 3 〕~〔 12 〕族の元素で,すべて〔 金属 〕元素である。上に示した21Sc30Znの電子配置を見ると,最外殻(この場合はN殻)の電子は〔 1 〕個か〔 2 〕個で,1つ〔 内側 〕の殻(この場合はM殻)の電子数は,最大数(この場合は18個)になっていない元素がほとんどである【発展】遷移元素の電子配置参照)

遷移元素の単体は,融点,沸点が高く,硬いものが多い。密度も大きく,スカンジウムSc以外は全て密度が4g/cm3以上の〔 重金属 〕である。典型元素で同族(周期表で同じ縦の並び)の元素は,最外殻の電子数が等しいため似た性質を示すが,遷移元素では最外殻の電子は全て1個か2個なので,同一周期の隣り合う元素どうしで似た性質を示す。同一の元素でもFe2Fe3のように,いくつかの酸化数を示す。酸化数の高い化合物は〔 酸化 〕力が強く酸化剤として用いられる。その他,遷移元素のイオンは有色のものが多い,化合物は〔 触媒 〕として用いられるものが多い,遷移元素の金属イオンは,分子やイオン(配位子)がもつ非共有電子対に配位結合し,錯イオンになるものがある。

 

① 自身は酸化数を減少させて(還元されて),反応する相手を酸化する。

② 遷移元素のイオンの色

 

③ 通常の共有結合は,2つの原子が互いに不対電子を出し,共有してできる結合である。これに対し,2つの原子間で,一方の原子がもつ非共有電子対を共有することによってできる共有結合を〔 配位結合 〕という

例)オキソニウムイオンH3O … H2Oの非共有電子対にHが共有結合した形(左下)

 

NH3などの非共有電子対をもつ分子は,金属のイオンに配位結合することができる。金属のイオンは陽イオン(原子が電子を放出してできたイオン)なので,NH3などが持つ非共有電子対を共有することができる。このときできるイオンを〔 錯イオン 〕といい,NH3などの分子を〔 配位子 〕という(右上)。【発展】金属の錯イオン参照)

配位子には,分子や陰イオンがあり,つぎのようなものがある。

H2O(アクア),NH3(アンミン),OH(ヒドロキシド),CN(シアニド),Cl(クロリド)

配位数:金属イオンに配位する配位子の数を配位数といい,金属イオンの種類にのよりほぼ決まっている。

 

錯イオンの電荷数:金属イオンと配位子の電荷の和になる。

錯イオンの形:錯イオンの形は,その配位数によって次のような形をとる。

直線型(2配位),正方形(4配位),正四面体(4配位),正八面体(6配位)

 

錯イオンの名称

(配位数),(配位子名),(金属名),(金属イオンの価数)の順で呼び,最後に全体が陽イオンのときは「イオン」,全体が陰イオンのときは「酸イオン」をつける。配位数はモノ(1),ジ(2),トリ(3),テトラ(4),ペンタ(5),ヘキサ(6)・・・で示す。

 
 
 
 銅とその化合物

銅はイオン化傾向が水素よりも小さいので希塩酸や希硫酸などの酸とは反応しないが,硝酸や熱濃硫酸のような〔 酸化力 〕のある酸には溶ける

 銅の化合物である硫酸銅() CuSO4は通常は五水和物で青色の結晶である。これを加熱すると,白色粉末の無水硫酸銅()になる。無水硫酸銅()は水を反応させると再び硫酸銅()CuSO4に戻るので,色の変化から,水の検出に用いられる。()イオンCu2は様々な陰イオンと反応する。銅()イオンは青緑の炎色反応を示す。

 

① (希硝酸)〔 3Cu 8HNO3 3Cu(NO3)2 2NO 4H2O 〕(無機化学の反応式 パターン6 銅と硝酸 ⇒ 硝酸塩+NONO2+α)

  (濃硝酸)〔 Cu 4HNO3 Cu(NO3)2 2NO2 2H2O  

  (熱濃硫酸)〔 Cu 2H2SO4 CuSO4 SO2 2H2O 〕 (無機化学の反応式 パターン5 銅と熱濃硫酸 ⇒ 硫酸塩+SO2+α)

 
 

硫酸銅() 五水和物CuSO4·5H2Oの結晶について

硫酸銅()五水和物CuSO4·5H2O 100mgを徐々に加熱しながら質量を測定すると,左下図のようになる。初めから95℃あたりで大きな質量変化がみられ,さらに200250℃で質量変化がみられる。また,計算すると100200℃ではCuSO4·H2O250℃以上でCuSO4あることがわかる。これは,CuSO4·5H2Oの結晶中の4つのH2Oと残りの1つのH2Oで取れやすさが異なるためである。

Cu2の配位数は4であることから,CuSO4·5H2Oの結晶中では4つのH2OCu2に配位結合し,残りの1つのH2Oは,SO42や他のH2Oと水素結合していると考えることができる(右下図)。

 

 銀とその化合物 

銀の単体は銅と同様にイオン化傾向が水素よりも小さいので希塩酸や希硫酸などの酸とは反応しないが,希硝酸,濃硝酸,熱濃硫酸のような酸化力のある酸には溶け,それぞれ〔 NO 〕,〔 NO2 〕,〔 SO2 〕を発生する。

銀イオンAgも他の金属イオン同様,様々な陰イオンと反応する。水酸化物イオン  OHとは水酸化物AgOHにはならず〔 酸化銀 Ag2O 〕となる。これは,AgOHが不安定ですぐに脱水反応が起こるためである。その他,〔 フッ素 〕以外のハロゲン化物イオンClBrIと反応し,ハロゲン化銀AgCl〔  〕,AgBr〔 淡黄 〕,AgI〔  〕を沈殿する。ハロゲン化銀には〔 感光 〕性がある。これは,光分解して銀を生成する反応で写真のフィルムに利用される。フッ化銀AgFは他のハロゲン化銀と異なり,水に良く溶け感光性が弱い。酸化銀,フッ化銀,塩化銀は,水酸化銅()と同様にアンモニア水と反応して錯イオン〔 [Ag(NH3)2] 〕となる(臭化銀,ヨウ化銀は反応しにくい)

 

 

 鉄とその化合物 

鉄の単体は赤鉄鉱(主成分Fe2O3)や磁鉄鉱(主成分Fe3O4)とコークス(C),石灰石CaCO3を溶鉱炉に入れ,熱風を送ると,コークスが〔 CO 〕になり,Fe2O3Fe3O4を還元することで得られる。
  Fe2O3 3CO → 2Fe 3CO2 , Fe3O4 4CO → 3Fe 4CO2

ここで得られた鉄を〔 銑鉄 〕といい炭素が3%含まれている。これを,転炉に移して酸素を吹き込むと,炭素分がCO2となって抜け,0.040.25%の鉄になる。これを〔 〕という。これらの過程で鉄鉱石中に含まれるSiO2Al2O3などの不純物は,石灰石の熱分解で生じたCaOと反応して〔 スラグ 〕と呼ばれる物質となって分離される。

 鉄はイオン化傾向が水素より大きいので,酸に溶けて鉄()イオンFe2+になり,溶液は〔 淡緑 〕色になる。Fe2+は酸化されて鉄()イオンFe3+になりやすく,液はしだいに〔 黄褐 〕色になってくる。鉄のイオンはさまざまな陰イオンと反応して沈殿したりする。これらの反応は鉄イオンの検出に用いられる鉄は濃硝酸には〔 不動態 〕となり溶解しない

 

 

② AlFeは濃硝酸のような酸化力のある酸を接触させると,金属の表面が酸化され酸化物の膜(酸化被膜)ができる。AlFeの酸化被膜は緻密なため,内部を保護してしまう。この状態を不動態という。

 

 クロム,マンガンとその化合物

クロムCrの酸化数には+2+3+6の化合物があるが,最も安定なのは〔 3 〕の状態であるCr3+である。酸化数が+6のものにはクロム酸カリウムK2CrO4やニクロム酸カリウムK2Cr2O7があり,後者は酸性溶液中でCr3+になりやすいので,強い〔 酸化剤 〕となる

クロム酸カリウムK2CrO4は黄色の結晶で,水に溶かすと電離して〔  〕色のクロム酸イオンCrO42を生じる。この溶液に酸(H)を加えると〔 赤橙 〕色のニクロム酸イオンCr2O72に変わる。この溶液に塩基(OH)を加えると再びクロム酸イオンに戻り黄色に変わるクロム酸イオンCrO42Pb2AgBa2と反応して沈殿を生じる

マンガンMnもいくつかの酸化数(+2+7)があるが,酸性溶液中では〔 2 〕の状態であるMn2+が最も安定である。そのため,過マンガン酸カリウムKMnO4+7,黒紫色の結晶)はMn2+となり酸化作用を示す酸化マンガン()は,触媒や酸化剤になる

 

① 〔 Cr2O72 + 14H + 6e → 2Cr3 + 7H2O 〕(Crの酸化数の変化 +6 → +3

② 〔 2CrO42 + 2H → Cr2O72 + H2O  色の変化(黄→赤橙)

   Cr2O72 + 2OH → 2CrO42 + H2O 〕色の変化(赤橙→黄)

③ PbCrO4〔  〕色, Ag2CrO4〔 赤褐 〕色,BaCrO4〔 黄 〕色

④〔 MnO4 + 8H + 5e → Mn2 + 4H2O MnO4の半反応式

⑤ 過酸化水素H2O2分解の触媒 2H2O2 → O2 + 2H2O

  塩化水素を酸化させて塩素を発生させる4HCl MnO2 MnCl2 Cl2 2H2O

 

酸化剤・還元剤の半反応式の作り方 

例) ニクロム酸カリウム

① Cr2O72 → 2Cr3 を覚える  

② Oの数をH2Oで合せる Cr2O72 → 2Cr3 7H2O

③ Hの数をHで合せる Cr2O72 14H → 2Cr3 7H2O 

④ +,-を電子eで合せる Cr2O7214H6e2Cr37H2O